鋼の錬金術師 【Please trust me】 3 〜おかえりなさい〜


「『私は残業があるので送れない、適当にやっておいてくれ』だそうだ」

私の隣を歩くハボック少尉がタバコをふかして言った。

「あの、ハボック少尉」
「何だ?」
「スーパー…って言うか、食べ物売ってるところってあります?」
「そりゃあるが…」
「寄ってもらえませんか?」
「オーケー」

たぶん意図は伝わったんだと思う。
ハボック少尉はマイペースな人だ。
任務を遂行する上で、自分のペースを乱されないということはある意味重要な項目に思えた。

「なぁ、、ちゃんだっけか?」
「はい?」
「珍しい服着てんな」
「えぇ…まぁ。私の元いた場所は、みんな同じ格好でしたよ」

スーパー(?)に寄ったのち、車内で唐突に話題を振られて目を見張ったが、疑問も最もだ。
が来ていたのは学校の制服。
確かに、珍しいかも、とうなづく。

「少尉たちが来ている軍服も、同じようなものじゃないんですかね?」
「そうかねー…」
「ところで、少尉」
「?」
「エルリック兄弟をご存知で?」
「んぁ?あぁ、あの鋼の錬金術師の?」
「知ってるんですね」
「あぁ、何せ最年少で資格取ったっつーんだからな。有名だ。噂は聞いてる」
「いくつなんです?」
「今年で15だそうだ」

ありがとう、少尉!!
これで時期が大体掴めた。
エルリック兄弟もここには確かにいて、その年は15にあたる。
兄、エドワードが資格を得たのが14の時。
大佐はすでに大佐だった。
そんなことを思案しているうちに、車が止まる。

「ここ」
「っへぇー…」

って…

デカ!!!!!

「そりゃぁ国家錬金術師、軍部大佐、そんな肩書きがありゃ金も入るだろうさ」
「…儲かるんですね…国家錬金術師」
「そりゃな。研究費用だけで莫大な額だ、って大佐は言ってたぞ。…何だ、興味あるのか?」
「まぁ…」
「ふ〜ん、ま、簡単になれるもんじゃねぇことは確かだな。…それじゃ、俺はこれで」
「あ、はい」
「大佐は夜中には戻るそうだ」
「分かりました」

うへぇ…

「きったないなぁ…」

デカイ家に人気は無い。
寂しい空間だ。
キッチン・リビング・廊下。
その隅々にホコリがたまっている。
帰れないのか、はたまた帰りたくないのか。
冷めた『焔』を湛えた目。
ハハン。
やってやろうじゃん。
はテキパキと掃除を始めた。
キッチン・リビング・廊下。
次は、書斎。

「うっわぁ〜」

大量の本。
床に積み上げられているもの、机に開きっぱなしの本。
これ全部錬金術の本だろうか、一応そこは触らないようにしておく。
手近にあった本をパラパラとめくる。

「これが、構築式…」

始めて見る、理論と組みたて方。
むっず。
っていうか理解不能だわ。
こんな…の、よくやれるな、全世界の錬金術師よ!!
やっぱ頭良いんだなぁ。
2冊ぐらい借りていこう、と本棚から手にとる。
料理を2人分作り、1人分を完食。
適当な部屋を見繕って、はベッドの上に座った。
大きな窓から夜空を覗く。
今頃現実世界はどうなってるのかな。
父さんと母さんはうまくやってるだろうか。
友達は?
やりかけの仕事。
読みかけの本。
あったのにな。
自分のいない世界はどんな風に回っていくのだろうか。

戻りたい。

この世界で、自分は独りきりだ。
運よく拾われたが、やはり独りだ、孤独は辛い。
膝に顔をうずめる。
もう一度、顔をあげる。
その時、部屋のドアが開いた。

「まだ起きていたのかね」

この家の主、マスタング大佐が入ってきた。

「眠れなくて」
「…そうか、…食事、ありがとう」

素直だ、…意外に。
はマスタング大佐に視線を向けずに呟いた。

「何かね?」
「いえ、こちらの話です」
「掃除も、してあったな」
「えぇ…ヒマだったので………大佐」
「何だ」
「眠れない時ってありますか」
「…いつもさ。私はいつも眠れない。恥ずかしい話だが、眠れないんだよ、怖くて」
「そうゆー時はどうするんです」
「寝る、な」
「矛盾してますよ」
「寝れるように努力するんだ」
「寝るのに、努力が必要なんですか…厄介ですね」

くすっとは自嘲気味に笑った。
たぶん大佐は話を合わせてくれている。
きっと本当に眠れない話など、彼はしないだろう。
弱さを見せることが、できない大人だから。

「しかたないだろう?」
「えぇ、仕方ありませんね…」
「もう寝ると良い」
「はい、…ありがとうございます」
「構わない」
「それと、大佐」
「?」

扉を閉めようとしていた大佐が振り向く。

「おかえりなさい」

一瞬大佐は目を見開いて、驚いたようだった。
それから、瞼を伏せて、フッと笑んだ。

「ただいま、おやすみ、


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ちょっと暗め。
あー!!面白くしたい…けど落ちないw↓。
修行足りなさ過ぎ。
まだまだ続きます。
てか、鋼の錬金術師なのにまだエドが出てこないっていうw笑。