【鋼の錬金術師】 30 〜戻ってきました〜
帰ってきました、東部。
「ん〜この時間なら皆さん仕事かねぇ」
呑気にそんなことを思いつつ、バッグを持ち直す。
天気は快晴で、少し乾燥している。
賑やかな街中。
「きゃぁ!引ったくりよ――――ッ!!!」
うわー…賑やかだと思ったら、向こうから悲鳴ですよ。
「誰か捕まえてェ!!」
あたしが振り返ると、いかにも犯人顔の野郎が向こうから走ってきた。
へいへい。
「どけェ!女ァ!!」
簡単に退く訳無いじゃないのよ。
あたしはバッグを背負うと、相手を見据えた。
「危ないッ!そいつは武器を持っているぞ!」
それ初めに言っとけ!!!
その言葉が届き切らない内に、野郎のナイフはあたしの腹に飛んできた。
が。
飛び物だったら慣れたものなのよ。
飛んできたナイフを指に挟んで止める。
どんどん飛んでくるそれを次々に止める、奴は走るのを止めない。
「くっ!!」
野郎はひるまないあたしを見て、苦虫をつぶしたような顔をした。
あたしの美しさに恐れをなしたか☆(果てし無く勘違い
あたしは投げられたナイフを野郎目掛けて投げた。
「ぐぁ!」
え、簡単に刺さっちゃった。
避けれると思ったんだけどな。
ナイフは野郎のふくらはぎに刺さった。
前のめりになって倒れる野郎の腕を取って投げ飛ばす。
飛んだ野郎の腕からバッグが飛ぶ。
ダァン!と良い音がして、野郎は地面に叩きつけられてうめいた。
飛んだバッグを上手くキャッチすると、あたしは野郎を見下ろした。
「悪いことはしない事だね、オジサン」
呆れながら、あたしは吐き捨てた。
「な、何者だッ!?」
「…しがない旅人ですよ」
あたしは呟くと、バッグの持ち主を探した。
「どけっ」
そんな声が聞こえてきたと思うと、人ごみを掻き分けて軍服の男が近寄ってきた。
「何だ、お前は」
うわっ、超感じ悪い。
「犯人はコイツですよ、これバッグです」
あたしが差し出すと、軍服の男はそれをひったくるようにして取り上げた。
それからジロジロとあたしを見る。
「お前、この国の者か?」
「は?」
「この国の者かと訊いている、答えろ」
「はい、そうですが?」
いかにも疑ってます、と言った表情。
やばい。
調べられたらすぐに分かってしまう。
毅然としていなければ、うろたえてはいけない。
「おいッ、立て!!」
軍服の男はひったくり犯にそういうと、あたしに視線を移す。
「お前も来い」
「…何故です?あなたは誰ですか?」
「…ゴードン、位は曹長だ。お前は怪しい」
わー、鋭い☆
「ふぅん…ま、いいですよ」
確か、国家錬金術師は少佐相当の階級だったわよね?
身分上は曹長よりは偉い筈。
いざとなって正体を明かせば一応は信用してもらえるだろう………か?
いまいち不安だ。
あたしは取り敢えずそのゴードン曹長についていくことにした。
着いた所は勿論東方司令部。
「で?お前は何者だ?」
向かい合ったゴードン曹長。
「何者、とは」
「名前は」
「・です」
「・?」
聞いた事のある名だったのだろうか、ゴードンは眉を寄せた。
「あの、マスタング大佐に会いたいんですが」
取り敢えず、あたしはそう切り出した。
これ以上詮索されるのは迷惑限りない。
「マスタング大佐?何でお前なんかが…」
当たり前か、とあたしは納得した。
一般人が軍部大佐ともあろう人に会いたいと言うのだ。
おかしいか。
そう納得しつつ、あたしは虚空を見上げた。
「では、リザ・ホークアイ中尉でも良いので会わせていただけませんか?」
「…」
ちっ。
中尉でもダメか。
どうしたら良いのだろうか。
あたしを知っていて、あたしの事を上手く説明できる人。
「ジャン・ハボック少尉はみえますか?」
怪訝に眉を寄せるばかりのゴードン曹長。
さすがに、軍部にこれだけ知っている人がいると不審者張りも相当だ。
だが、ゴードン曹長も折れたのか目配せした。
「・が来たとお伝えください」
にこり、と笑ってあたしは言うと部下の1人が部屋を出た。
しばらくして、ダダダダっと地を駆ける音。
「―――――――――――――――ッッッ!!!」
来た来た。
そんな叫ばなくても。
あたしは呆れてはぁとため息までついた。
ばァん!!!!
けたたましく扉が開いて、入ってきたのは勿論この人。
「マ、マスタング大佐!!!!!?????」
周りの人々が驚いて言うのも気にせずに、大佐はつかつかとあたしに近づいてきた。
「ッ!!」
あたしがハボック少尉はどうしたのか、と思う前に大佐が抱きついてきた。
「ぐ る゛ じ い゛………」
離せ…い、いや、離さなくても良い!!!
複雑な心境だ!!(は?
「マスタング大佐!何事ですか!!??」
「君!名前は?」
「は!!自分はゴードン、曹長です!」
「この子は怪しい者ではない!連れて行く、いいな?」
「は!!」
さっきとは打って変わってゴードン曹長は敬礼し了解した。
さすが、大佐。
名前の威力はすごいな、とあたしは頭の隅で思った。
大佐に手を引かれながら、あたしはくるりと振り返った。
「あ、ゴードン曹長。自分は・、
国家錬金術師で二つ名は“影忍の錬金術師”です」
以後お見知りおきを、とあたしは会釈し部屋を出た。
数秒後、奇妙な叫び声がしたがあたしは知らない振りをした。
「ちゃん!」
「あ、中尉だー♪」
相変わらず凛々しくて素敵です☆
「無事だった!?大佐が迎えに行ったって聞いて心配してたのよ?」
「ちゅ、中尉!それはひどくないか!?」
「はい、何もされませんでした」
爽やかな笑顔で言ってやりました。
「無視!!!???」
「大佐、うるさいですね」
涙で訴える大佐を一刀両断する中尉。
やっぱり良いコンビだ。
あたしが笑うと、大佐と中尉があたしを見た。
何です?
「…、おかえり」
微笑みながら、2人が言ってくれた。
何だかこそばゆい。
照れる。
「…ただいま」
あたしにも、帰るところがあったよ。
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オリジナルストーリー、一発目。
どうかな、ここからギャグに…(コラ