【鋼の錬金術師】  32   〜真実と偽り〜





「教えてくれても、良いだろう」


伏せ目がちに、彼は淡く笑いながら言った。


教えてあげても、良いの。


あたしは、教えてあげても…いいのよ?



「あたしが何者でも、構わない?」



あたしはナイフとフォークを置いて、口を開いた。


顔を上げた大佐と、目が合った。


焔を宿す、真っ直ぐな視線があたしを射た。


「愚問だな」


一瞬彼は瞬くと、微笑みあたしを見据えた。



嘘を許さない、真実しか受け取らない、そんな目をしている。

追い詰められる、余裕が、無くなる。



「あの、ね」

何から話せば良いか。

頭が冷静な割に、まとまってない話。

「あの、ね…あたし、嘘をいくつか…ついてて」

「知ってるさ」

「う…まぁ、そうでしょうね……で、ね?何を…ついていたと言うとね?」

うーあー、とあたしは言葉にならない言葉を繰り返す。


「お前は、何処から来た?」


困っているあたしを見かねてか、大佐が口を開いた。


「………分からないんです、でもハッキリしてるのは………

 ここではない、どこかから来たって事です」


見据えたまま、あたしは呟くように言う。


「ここではない、どこか?」

「えぇ、異次元…異世界、他に呼び方があるかもしれません」

あたしは瞼を閉じた。

「…この世界の人間ではない、と?」

「ハイ、それは確実なんです」

再び目を開けた時、大佐はもう食べ始めていた。

「あ、あの、大佐?」

「信じたさ、君の話。

 私はどこか―――知っていたのかも知れない。

 君が、私達とは違う存在であるという事を」


ずしり、とある言葉が心に圧し掛かった。


『私達とは違う存在である』


そんなにはっきり言わなくてもいいじゃない?


「えぇ、そうです。違う、存在」

悲しいの?

手が震えて、まずい。

今フォークやナイフを持ったら、カタカタと鳴ってしまいそうで。

きっとこの動揺が伝わってしまう。


「話は、それでお終いか?」


大佐の落ち着いた声が響く。


この世界が“漫画”として存在し、あたしが“未来”を知っている事、

そこまでこの人に話して、共同して…背負わせるなんてできない。


あたしは一度瞬くと、大佐を見据えた。


「以上です」






「お前のあの、錬金術も、俺達のそれとは違うんだろう?」

「…えぇ」

「お前のアレは、理論を必要としない。つまり最初の段階、“理解”を踏んでない

 間違った錬金術だ」

それはそうだ。

だって、あれは。

「錬金術なんかじゃない」

だったら何だ?

そう切り替えされた。

「陰陽術」

それ以外に、応える言葉を持っていない。

そうでしょう?

「何だ、それは?」

「この世の理ですよ、陰と陽、男と女、表と裏…それを司り、操るのが陰陽術」

「だから、錬金術ではない…か」

かたん、と大佐はナイフとフォークを置いた。

「話は大体分かった」

「だからね、大佐。あたしは元の世界に戻らなくちゃならないの…」


あたしはいったん言葉を切った。


「そのために、賢者の石が、必要なのよ」




お互いの視線が交差し、刺さった気がした。





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暗ぁー!!
有り得んって。有り得んって。
ハイ、次行ってみよー?