【鋼の錬金術師】  33   〜流空の錬金術師〜






「流空の錬金術師?」


朝食を作っていたあたしは思わず聞き返す。

「あぁ、物質の瞬間移動を…可能にしたという錬金術師が、

 今、資格更新のために司令部に来ている」

トーストを頬張りつつ、大佐はそう言い放った。

「瞬間移動、ですって?」

あたしは怪訝に眉を寄せる。

物理を少しかじったが…そんな事、できるとは思えない。

それに、この世界の錬金術の原則は…。

「等価交換の原則を無視してる」

果物を切り終え、あたしは席に付く。


「あぁ、その辺の事も、不可解だろう?もしかしたら…」



「賢者の石がらみかも、って訳?」



あたしもトーストを頬張り、唸った。

、今日司令部へ一緒に行かないか?奴―…流空の錬金術師は…


 ひどい都会嫌いで、人嫌いで有名だ。


 だから、会えるのは今日ぐらいだぞ?」


大佐ががたんと席を立つ。


「行くだろう?」


コートを取り、大佐があたしに尋ねる。


「行くわ」


あたしは大佐を見据え、言い切った。


そうか、と言い出て行く大佐。








「ちょ、ちょっと待って!!!」








まだ片付けとか片付けとか、片付けとか残ってんのよ!!!!







、早くしたまえ」

「この野郎…大佐じゃなかったら殴ってるところだ」

「下品な言葉は使わぬほうが良いぞ、品格が問われる」


「知ったことか!」


けっとあたしは言い捨て、食器を大急ぎで洗い、着替えて、大佐の車に乗った。










「………」





これが?





、どうしたのかね?」





これが。





「あなたが流空の錬金術師…?」


「いかにも」


あたし、大佐の前に座すのは、老齢な小さな男の人。


仰々しく頷く姿は、外見からじゃとても想像できない。


「して、何用じゃ、焔の若造」


「ははは…本当に敵いませんね、流空の錬金術師、ジャスト・ウインター氏」

「ウインターさん…?」

「その娘は誰だ、ワシはおぬしの頼みと聴いて足を伸ばしたのだが」


ギロ、と睨まれた。


う…。


怖ァ―――……。



、挨拶を」

促され、あたしは口を開いた。

「あたしは、です」

ぺこり、と頭を下げる。

「焔の、この小娘がどうかしたのか?」



小娘て。



「ウインター氏は物質の瞬間移動―…つまり空間の移動を研究しておられるとか」

「いかにも」

「折り入って、ご相談があります」

「言ってみろ」

そう、向こうが言うのを確認して、大佐は口を開く。



「この娘、は―…この世界の住人ではありません」



そこでやっと、ウインター氏は反応らしい反応を見せた。



「何じゃと?」


「信じられない気持ちも分かりますが、真実です」


大佐は態度を崩さない。

眉を寄せるウインター氏と、表情を崩さない大佐。




そう簡単に信じてもらえるわけ、ないよなァ。




あたしはギッとソファーにもたれた。


しかしその思いは、すぐに霧散する。



「その、移動した時の状況を話してはくれないか?」









え!!!???









案外あっさりな反応に、あたしはバッと身を乗り出した。


「どうした、早く話せ」


鷹揚に言う姿が違和感でならないその流空の錬金術師は、真っ直ぐにあたしを見た。




「………門を、ご存知ですか?」





ピクリ、とウインター氏の肩が、かすかに動いた。


知ってる。







このひとは、あの真理の門を、知ってる。







「元居た世界で、練成陣らしきものを見て、そしたら次の瞬間門のところへ、

 そして、気付いたらこの世界に居ました」


「左様か…」


ウインター氏はそう呟き、瞼を閉じた。


「了解した、見えた練成陣を、教えてはくれぬか?」


どうやら、この人は、何かを知っているようだ。






暫く事情を話すと、その小さな錬金術師はふぅと息を付いた。



「ワシの錬金術は確かに物体の空間移動を可能にする。

 だが、不確実だ。人間を、電子レベルにまで分解し、再構築するのは容易じゃない」



まだ研究の途中なんじゃ、とウインター氏は呟く。




「死んでも、帰りたいのかい?」



ウインター氏の老いた目が、あたしを見据えていた。









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久々すぎてキャラを忘れたのですが、何か?(爽やか)
これからどんどん書きます。