【鋼の錬金術師】  36   〜代価〜






「んで?」


あたしはエド、アルとともに朝食にありついた。


目の前に座ったエドが頬杖をつきつつ、口火を切った。


「ん〜、何が〜?」


あ、このトーストうまっ。


「真面目に答えろよ」


エドが溜息をつく。


「だから、何によ?」

あたしはエドを見据え、トーストを頬張る。


「何で急に俺の…俺のベッドの中に現れたかって訊いてんの!」




そんな恥らわなくても良いじゃない、エディってば★☆★☆(黙れ)




生憎不可抗力だったのよねぇ…。


門から出たらここに来ていたんだから。





忍び込むのは長年の夢でもあるんだけど。(黙れ)





「ちょっとね…実験してたら飛ばされちゃって」


えへ☆とあたしは可愛く(てめぇ)言ってやった。


「どんな実験してたら東部から中央へ飛んでくんだよ」


呆れながらエドはウィンナーをつっつく。

アルはロス少尉たちと話している。


「今日も行くの?図書館」

「ま、な…」

そのげんなりとした様子に、あたしは


あぁ、まだ何も分かってないんだ。


と唸る。


「成果はなし?」

「なし」


カランとエドはフォークを放り出す。


「難解過ぎんだよ、マルコー氏の暗号!」

「アハハ…大変だねぇ」

「でさー、お前は何の実験してたんだ?」


や、やばっ…!



「………ほ、惚れ薬………?」



「は?」






なー!!!



もっとまともな答え出てこなかったのか、あたし!!!!





エドが呆けた顔であたしを見ている。



「んなモン作ってどーすんだよ」

「…飲ませる?」

「誰に」

「ェ」

「え?」


「エディ☆君にさ」


もうこうなりゃ自棄だ☆


本当の事言うよかマシだ!!


「真面目に答えやがれ」


冗談だと思われたらしい。


ほっと一安心なのか、そうでないのか…何とも微妙だ。






でも、ちょっと待って。






あたしは確かに“門”まで行った。


一体その“代価”は何だったのか?


門に入る前に見た、最後の“アイツ”――――……‥


「あ――――ッ!!!」


バン!とあたしは立ち上がると愕然とした。


「な、何だよ?」

エドの怪訝な様子さえ目に入らない。









ウインター氏だ。









“代価”はウインター氏だ。



嘘でしょう?


漫画では“代価”として持っていかれた分が“アイツ”の姿になった。

…という事は。

最後に見た“アイツ”は確かにウインター氏“そのもの”だった。




ウインター氏の全身が、“代価”だったって言うの?





そんなの、重過ぎる。

あたしには背負い切れない。


嘘でしょう?


あたしはすがる思いで、食堂を飛び出し公衆電話まで走った。



ダイヤルする先はロイ大佐の家。


「出て…お願い!」


コール音は鳴るも、出る気配が無い。


「司令部にかけるしか…」


あたしはアドレス帳を開くと、東方司令部の電話交換室へとダイヤルした。




「も、もしもし…!」




早く、早く確かめさせて。


何も無かった、と。


大佐もウインター氏も無事だと、早く!



あぁ、鬱陶しい!!


知らないわよ、合言葉なんて!!!



すったもんだの後、やっと大佐に繋がった。


「もしもし、か!!??」

「あ、大佐!?」


「「無事でよかった―――…‥」」


上手くハモって、あたしは苦笑した。


「大佐、無事だったんですね…」


良かった、と呟く。


「私もお前が無事でよかったと思うよ、…という事は失敗だったと言う訳か…」

「そう言うことになりますねぇ…」


声のトーンが下がる。


「ウインター氏は」

「ウインター氏は死んだ」

「な…」


何ですって…?


「じゃ、じゃぁ…リバウンドが…」

「分かってたのか?」

「ハイ…まぁ、何と無く」


やっぱり、あたしは。


ウインター氏を“代価”に。


?」

「…た、いさ…あたし…」

…」





他人を“代価”に。






「嘘でしょう…」

「ハ」ガチャン。


大佐の言葉を待たずにあたしは受話器を置いた。




………。




嘘でしょう………?




ひとを殺した気分だ。




お腹が鉛を食べたように重い。



フラフラとした足取りで、あたしは宿を出た。




何処へ向かうでもなく。




ただ呆然と、前に進むしかないロボットのように。








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あちゃ〜、いつの間にかシリアスに(ア痛)

がしかし!

負けない!あたし負けない!(黙れ)