【鋼の錬金術師】 39 〜重要人物との遭遇〜
「はれ?」
あたしがエドの病室に入ると中佐や少佐がいた。
妙な雰囲気が漂っている事に気付く。
「……君は…?」
エド、アル、アームストロング少佐にヒューズ中佐、そしてもう一人。
隻眼に温厚そうな顔立ち、この人は。
「キング・ブラッドレイ大総統」
呟いて、あたしは入り口で固まった。
「ッ」
いそいそとエドが出て行けと仕草をするけど、そんな事お構いなしで。
あたしが固まってるのは、そこにいるのが“大総統”じゃなく“敵”だという理由。
「君はもしや、影忍の錬金術師かね?」
温厚そうな顔で、温厚そうな声で、そう訊ねてくる。
「は、い」
あたしは何とか、何とか悟られまいと言葉をつむぐ。
「影を操るそうだね、噂は聞いてるよ」
「…どうも有難う御座います」
周りのハラハラした空気が伝わる。
「是非見せてはくれんかね?…私も長い事この職に就いてきたが…
影の練成なんて聞いた事がない」
最後の方に底知れないものを感じて、あたしはギッと大総統を睨み据えた。
「!何してんだ!」
早くやれ、と言うヒューズ中佐の声が聴こえる。
「…良いですよ」
あたしはやっとの思いで言葉を搾り出す。
パンっと手を叩き、地面に手を付ける。
ズズズ…。
動き出したのは大総統の影だ。
ラスト姐さんから色々聞いているに違いないこの人は、慌てた様子もなく状況を見ている。
下手に練成陣など書いてしまえば、警戒が悟られると思った。
「…素晴らしい…どのような仕組みなのかね?」
「それは…分かりません」
「そうか…まぁ知っていてもネタばらしはしないだろうね」
顔は笑っているが、目がそうではなかった。
あたしは彼を睨み据える。
心臓が高速に動く。
目は彼の動きを追うが、身体は動かなかった。
その背が窓の向こうに消えた時、ウィンリィが病室へと入ってきた。
あたしはそれと入れ違いに、トイレへと向かった。
間違えてなんていないはずだ。
トイレの鏡を前に、あたしは自問した。
「大丈夫、ウン」
何で忘れていたのだろう、彼が来ることを。
あの目は、あたしを“見定めていた”
未だ少し早い胸に手をやると、はぁ、と息を吐いた。
「…それで?なァにしてたんですか、揃って」
「おー!ちゃん、久しぶり!!」
「改めましてお久しぶりですー!!」
気を取り直して手を挙げる中佐に、あたしはハイタッチをかました。
トイレから戻るとウィンリィは病室にはいなかった。
「1回向こう(東部)へ戻ったんだって?」
「はい」
「…ロイの奴は元気だったか?」
「何ですか、中佐。デンワ、してるくせに」
くすくすと笑いつつあたしは彼を見上げる。
照れくさそうに頭をかき、参ったな、と中佐はつぶやいた。
「元気そうでしたよ、今は―――…分かりませんけど」
生きている事は電話で確認した。
だが、リバウンドでウインター氏が“死んだ”事は分かった。
大佐は、アレをどう見ているだろうか。
「そうか…そうそう、奴等は南部へ向かうそうだが、ちゃんはどうするんだ?」
「あたしは…少しこちらにとどまってみようかと思いまして」
「またどうして」
「調べたいことが、できたので」
あたしは言いつつ瞼を閉じる。
「うまく事が済んだら合流するつもりではありますけど…」
うまくいけば、の話だ。
うまくいかなければ、あたしは、どうする事もできない。
「それが良いかもな。ウィンリィちゃんも一緒らしいし…君等ウマ、合わないだろ」
ニィっと中佐は笑う。
「バレました?」
肩すくめつつ、あたしはため息も吐く。
「まぁ、良いんじゃないですか。幼馴染同士仲良くやったら」
「君、案外冷めてるんだな」
「…そんな事言われても」
困ります、と首まで横に振る。
「お前こっちに残るのか?」
ベッドの上のエドが、あたしに問いかけた。
「えぇ、ちょっとね…」
あたしが言いよどむと、エドが眉間に皺を寄せる。
「、お前なぁ…」
「ダイジョブだから」
にへら、と笑ってみる。
ちょいちょい、とエドが手招きするのでベッドに寄る。
その頬をエドは思いっきり引っ張った。
「痛いって!」
苦笑しつつあたしは抗議の言葉を吐き出す。
「…今は、良いけどよ…無茶はすんなよ…?」
引っ張っていた頬を離して、エドはあたしの耳元に口を寄せて、言った。
聴こえるか、聴こえないか、ギリギリの声量。
その言葉をあたしの頭が理解するまで、数秒かかった。
「な…なーに言ってんのよ!それはこっちの台詞!!」
嬉しいし、何か照れくさい。
あたしはそれを隠すように、エドの頬を思い切り引っ張った。
エドたちの見送りには行ってない。
今日は、あの日だから。
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ワォ★全然まとまってないや(ビックリ★(消えろ)