【桜蘭高校ホスト部】
「何?ハルヒたちは?」
「あっちでゲーム」
「ふぅん…」
あたしは言葉を濁すと視線を感じた。
「なぁに?」
「いや、やっぱり綺麗だなぁと思って」
「なぁに、おだてても何もないわよ」
「なぁんだ、つまんねー」
「アハハ、黙れ☆」
にっこりと笑みを付けて言い放ってやった。
「うわっ、怖ぁ〜い」
「語尾をだらだらのばすのは止めろっ!」
「へへへっ」
「何がおかしいのよ」
ふぅ、と溜め息。
「ねぇ、姫さ」
「何?」
「本当に僕達と会った事ない?」
ん〜…?
実は初等部同じクラスでしたよ〜?
なぁんて、言いたいけど。
何と無く鏡夜とか光邦が内緒にしている辺り、何か企みがあるのだろう。
て言うか、ただ楽しみたいだけだろうが。
あいつ等の楽しみを壊すのは…
万死に値する。
「そりゃ1回や2回、パーティーとかで会っているでしょうねぇ」
「…ふーん…」
ありゃ、納得いかない?
「まぁあたし影薄いし…覚えてなくて当然でしょ」
「…そうだね」
やっぱり納得してない。
馨はあたしをじーっと見て、また考え込む様に下をむいた。
「…姫さぁ…嘘付いてる?」
「あぁら、バレちゃった?」
あたしがあまりにもあっさり認めるもんだから、馨は驚いて目を見張った。
「取り敢えず会った事はあるわ」
「それはホントだね」
こいつ…。
あたしは黙る。
「でも1回や2回じゃない、でしょ?」
にやっと馨が笑う。
「ぁ、図星だ?」
こいつ…只者じゃない。
伏兵だ、単純な奴じゃない。
「結構僕達と関係があった、違う?」
「違わないね」
へっと、あたしは言い捨てる。
「素直なんだね、でもそれは作戦。そうでしょ?」
分かっているくせに、いちいち訊いてくる。
「人の心を良く知ってる人がする技だ。肯定は時に、人の心を最大限に惑わせる」
何だ、こいつ。
「ね?」
何だ、こいつ。
無駄だ、止めよう。
「じゃぁ違う」
「じゃぁって何さっ」
あはは、と馨は笑う。
「それはそっちも同じでしょ?」
今度は仕返し。
やられたままじゃ、あたしの気が済まない。
こうゆーとこ、鏡夜に似たかな。
「何が?」
「光はとても素直だ」
「…」
馨はあたしをずっと凝視してる。
分かってるよ、馨。
あんたはずっと“光”のフリしてあたしと話してた。
髪の分け目、喋り方、雰囲気。
全部“光”のそれ。
だけど、分かるよ。
あんたは“馨”だ。
「素直なんて初めて言われたよ」
ははっと笑う。
ちょっと動揺してるね、馨くん?
「だろうね」
あんたは“馨”だから。
「姫、何考えてるのさ?」
「べっつに、何も?そうそう、光は素直である意味すごい若い。
馨はね…頭が良いね、それに少し優しい」
馨が眉を寄せる。
「嫌いじゃないけど?」
ね、とあたしは企むような笑みを浮かべ、馨の目の奥を覗く。
あ。
動揺していた目の色が、普段の色に戻った。
「姫…馨の事好きだったの?」
やーい、と面白いオモチャを見つけたような顔。
“光”だ。
「馨に伝えといてあげるよ、あいつも結構姫の事良いって言ってたし」
「ありがと、でも伝える必要はないでしょ、ね?光」
にこっと笑い付きで言ってやる。
頭の良い彼なら分かった筈。
あたしが喋りかけている相手は“馨”だってこと。
「え…?」
今度こそ、“光”は“馨”の面を見せた。
勝った。
あたしは見えない所で小さくガッツポーズをした。
そのまま彼の横を通りすぎ、リビングへ戻った。
「ちょっとー、食べないなら食器浸しておいてよ」
あたしは食器を浸すと片付けを始めた。
光は廊下に出ていく。
その後ろを気付かれないように追って、聞き耳を立てる。
「馨?」
「あ、何?」
「何って…うまくいったのかよ?」
「分からない」
「分からないって?」
「分からないんだ、姫の思惑が」
あたしに勝とうなんて10年早いのよ。
鏡夜の幼馴染で、光邦門下生よ?
ふっ…
自分で思ってみても、素晴らしく不幸な境遇…。
「?」
「なに?ハルヒ」
「自分もう帰らないといけないので」
ハルヒはきっちり帰る準備をして、言った。
「あぁ、そっか」
じゃぁあの2人に送らせないとね。
「光〜馨〜」
「「姫」」
「ハルヒ帰るって、送っていきなさいよ」
「何で姫に命令されなきゃなんないのさ」(光)
「じゃぁ何?この暗い中、こんなに可愛いハルヒを独りで帰らす気?」
わ〜ひどぉ〜い、信じらんなぁい。
「そりゃ勿論送ってくけどさ」(光)
なら始めからそうしなさいよ。
あたしが腰に手を当てふんぞり返ると、馨からの視線。
「ん?馨どうかした?」
「いや、何でもない」(馨)
「何、ハルヒ、もう帰んの?」(光)
「もうって、9時だよ?帰らないと」(ハルヒ)
「そうだね、何だか疲れちゃった」(馨)
お前らの100倍疲れてんだよ、こっちは。
あのケーキどうするよ…。
「じゃ…」
帰ろうとする3人。
「あ、ちょっと待って!!」
あたしは奥の部屋に入っていき、二つの小包を持ってくる。
「はい、これ」
「何コレ?」(馨)
「何って誕生日プレゼント」
当たり前でしょ?
何で理由も無いのにプレゼントする必要があるのよ。
「要らないんなら別に良いけど」
赤の箱を光に、青の箱を馨に差し出す。
受け取ってはくれたものの、黙ってそれを見下ろす2人。
はっは〜ん、さては嬉しさで感無量ってか??
「こんなちっこいプレゼント…」(光)
「初めてもらった…」(馨)
「黙れっっっ」
少しでも期待したあたしがバカでした。
「まぁったく、これからうちに来る時はアポとってからにしてよね」
「「え〜」」
「そんなのつまんないじゃん」(光)
「そーそー」(馨)
「「言っておくけど僕等の家には招待しないからね?」」
誰が行くかっ!!
「ハイハイ…あ、それと箱替えないでね?違うものが入ってるから」
「え、何ソレ」(光)
「何かヤな感じ」(馨)
ヤな感じなのはどう考えてもアナタ方ですよ。
「て言うか、僕等の事見分けついてる?」(馨)
「ついてない」
「ひっどー―――!!」(光)
あたしはしれっと返す。
「普通そうでしょうが」
「まぁ、ね?」(光)
「うん、ね?」(馨)
2人が見合わせる。
絶対良からぬ事を考えてる。
「光、馨、まだ?」
ハルヒが呼ぶ。
「んじゃぁね、光」
あたしは肩を叩く。
「じゃぁね、馨」
片方にも叩く。
「「…」」
無言で2人は踵を返した。
「…?」
ハルヒだけが、意味ありげにあたしに話しかける。
それを目で制すと、にこっとおどけて笑ってやった。
「じゃぁね、ハルヒ」
良い夜を、そう言ってあたしは手を振ってドアを閉めた。
その向こうで。
「あの人間違えたね、俺達の事」(光)
「僕の思い過ごしだったかな…?本当に分からないのかな…」(馨)
「…そうかなぁ…」(ハルヒ)
「ん?どした?」(馨)
「いや…、本当に間違えたのかなって」(ハルヒ)
「どう言う事?」(光)
「…わざとのような気がする」(ハルヒ)
「え、じゃぁ何?あの人はわざと僕等を間違えて呼んだって事?」(馨)
「何の為に?」(光)
「知らないよ」(ハルヒ)
「「そうかな〜」」(双子)
「たぶん、そうだと思うけど」(ハルヒ)
「…不思議な奴」(馨)
せめてもの仕返しに、悩みの種を植えてやった。
実は光も馨も見分けがつく。
何ていうか、言葉では表現できないある種の第6感みたいなものだ。
あたしは「光」と言いながら“馨”の肩を、「馨」と言いながら“光”の肩をそれぞれ叩いた。
出会って日は浅いけど、分かるよ、何となく。
しばらくは、あの2人で遊んでみよう。
それに、しばらくは、あの2人に遊ばれてやろうと思う。
あたしも鏡夜に似て“退屈嫌い”も相当だなぁ。
「あ…ケーキ」
ケーキも、常陸院の屋敷へ送ってやろうと思う。
着払いで。
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