【桜蘭高校ホスト部】
「姫」
「はい」
あたしは呼ばれて本から顔を上げた。
ここは桜蘭高校1年A組、窓際の最後尾。
「なに?」
目の前に立ってるのは常陸院ブラザーズの片割れ。
“馨”の方だ。
「これ」
馨は言って、あたしの目の前に携帯を掲げた。
「あ、つけてくれたんだ?嬉しいな〜」
そ、昨日あたしがプレゼントしたのは携帯ストラップ。
特注品。
美しい細工と小さな宝石が散りばめられているシンプルなシルバーアクセ風ストラップだ。
因みに、すっごい小さな字で“東帝”の文字が刻んである。
ある種のエンブレムってやつだ。
「ありがと」
「ん?どーいたしまして」
珍しいな、あの双子(のうちの1人)が素直に礼なんて…
ん…?
でも馨の掲げる携帯に付いているストラップ、これは…
光のじゃない?
あたしは馨の顔を凝視する。
「何?」
「仲良いのも勝手だけど…天邪鬼なのはどうかと思うぞ」
「どう言う意味?」
「言葉そのままの意味」
にっ、とあたしは笑うと本を持って席を立つ。
教室を出る時、ハルヒとしゃべっている光と目があった。
「もしかして2人で兼用じゃないだろ?」
「何が?」
「ケータイ」
「んなケチ臭い事するわけないじゃん」
光のぶっきらぼうな答えに、あたしは「ふぅん」とだけ返して教室を出た。
【授業中其の一】
次の授業は物理だ。
サボっても問題ないかな。
あたしはそのまま足を南校舎に向けた。
あそこなら誰も居ないだろうし、授業でも使うまい。
南校舎の最上階、北側廊下つきあたり。
『第三音楽室』
カギは部員全員が持っている。
「おじゃましまーす」
そろそろと扉を開け、あたしは中に足を踏み入れた。
「何だ、サボリか?」
「まぁそんな所…ってぇえ!!??」
居る筈のない人の声がして、あたしは叫んだ。
「叫ぶな、一応授業中だ」
「そ、そんな事言われても…ぇえ!?鏡夜!何であんた…」
そう、そこに居たのは優雅にティーカップを持ち、パソコンに向かうメガネ大魔王。
2年A組委員長にして学年主席、超Aクラスのトップ集団ホスト部をまとめるお母さん、
鳳鏡夜がそこにいました。
この無駄に長い形容詞は何だ!!
「サボリだ」
「訊いてないし、聞きたくもなかったわ!!」
鏡夜がサボリなんて…読者の(腐)女子諸君も聴きたくなかった筈!!
「こう言うのは似合わないのでは…」
顔が引きつるのですが。
「そうだな、だがそれはお前も言える事だ」
「…」
「廊下でお前を見掛けたからな、暇潰しには丁度良いだろう?」
もしかして付き合ってくれたのかな。
何だか急にどきどきして、うまく言葉が出てこない。
「ま、まぁ悪くはないね」
「どうだ、教室での生活は」
慣れたか、と鏡夜はあたしにお茶をいれてくれた。
「まぁ…元々言葉遣いは乱暴だからな、あとは適当にやってるよ」
「光たちとはうまくやっているか?」
「…まぁ向こうがどうであれ、俺は結構楽しくやってる…」
「そうか、良かった」
「でも2人は同じ女でもハルヒの方が好きみたいだな」
くすっと笑いを込めて言うと。
「何だ?お前はあの2人に迫られたいのか?」
「滅相もない」
「お前には俺がいるからじゃないか?」
「へ?」
どゆ事さ??
「オモチャ扱いすると、俺やハニー先輩の目が怖いんだろう」
「はーぁ、それで…」
と、そこで納得して良いのか、あたし!!
「あんた等どれだけ恐れられてんだよ…」
ため息は禁じ得ませんね…。
「ところで、今度は二人ででかけないか?」
「は?どっか行きたいところでもあるのか?」
「いや…そういう訳ではないが」
あたしの返答に鏡夜はやれやれと首を振った。
どういう意味だ。
「あぁ、俺とデートしたいってのか?」
冗談まじりに行ってみる。
「そういう事だ」
「え!!??」
「何を驚いてるんだ?」
しれっと言われ、あたしはさらに混乱する。
「え、何、それってどういう意「お前はそこまで鈍かったか?」…」
かぁっと顔が熱くなった。
本当に、そういう意味なのだろうか?
ただ単にあたしをからかってるだけ?
ありえる…。
あたしをからかうのが趣味のような奴だ。
昔から。
真に受けて、信じてバカを見るのは厭。
「…からかうのは止せよ」
パタン。
あたしの言葉に応えたのは、鏡夜の声じゃなく、鏡夜のファイルの閉じられる音。
「そうか」
何が、そうか、よ。
鏡夜は立ち上がると、踵を返すとドアに手をかけた。
「お前がそのつもりなら、仕方ない」
言って、出て行った。
…………。
何よ。
素直…に、言えば良かったって言うの?
冗談じゃない。
「鏡夜のばか…」
そんな日も、この時間はやってくる。
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