【PEACE MAKER】 例えばこんな逸話 THE THIRD STORY
今宵は満月。
盗むには最適の日。
は屋根に上り、空を見上げた。
「空から飛んできたりして」
「んな阿呆な」
同じく屋根の上を任された烝が鼻で笑った。
「分っかんないじゃない」
「ありえへん」
「そうかなァ…」
「お前、何夢みとるんか知らんけど、こんな鉄壁の守りの中一人でくる阿呆がどこにおんねん。
予告状出したんが運の尽きや。今日はこんやろ」
たしかに。
新撰組は泣く子も黙る、云わずと知れた人斬り集団。
その幹部が守っている土方の部屋へ単独で踏み込むというのが無茶な話なのだ。
「静かやな…」
「えぇ…」
それは異常なほどの沈黙。
静か過ぎる。
〜 第三夜 Confusion × Encounter 〜
「来ないねェ…」
新八の呟きが夜中の空気を伝う。
「そうだな…て言うか来れないだろ、こんな警備の中じゃぁ…捕まるのがオチだ」
「噂の怪盗も、初の断念ってか?」
がはは、と能天気に佐之が笑った。
その時。
「何やってんだ?こんな時間に」
バッと弾かれたように3人は振り向いた。
「わっ!な、なんだよ!?」
「こ、子犬くん…」
「何してんノ、こんなトコで…」
立っていたのは市村鉄之助(副長の小姓)である。
虚を突かれて、3人は思わず脱力した。
「市村か?」
副長室から声がかかる、土方の声だ。
「ハイッ」
「お茶を淹れろ、外の3人にもだ」
「は、ハイッ」
言われて、鉄之助はどたどたと盛大な足音とともに廊下を曲がって消えた。
「来ませんねぇ、怪盗サン」
「フン、恐れをなしたんだろう」
「…土方サン、すごく焦ってましたね?」
「そ、そんな訳あるか!!」
いつものように和やかに(?)会話を楽しむ2人。
だが。
「いや、そやつは必ず来ますぞ」
「…どういうことだ、斉藤」
「すでにこの屋敷の中に入りこんでるやも知れませぬな…」
いつもの調子なのだが、声は少し緊張しているように思えた。
「何だと…?」
「副長!お茶持ってきましたッ!!」
「…入れ」
一に視線を引きずられながら、土方は鉄之助を中に入れた。
「あれ…3人で何してんスか?外の3人も…」
「お前には関係ない」
「ちぇっ…どうぞ…っとと!!」
ばっしゃーん。
「て、鉄くん…君って何てお約束な人なんですか…!!」
大爆笑の総司。
怒りに打ち震える土方。
青くなって呆然とする鉄之助。
鉄之助を凝視する一。
四者四様。
「い、市村ァ!!!!!!」
「…ん?今なんか言った?」
は烝のほうを見て尋ねた。
「いや…?何や下が騒がしくなって…」
パン!!
「え…?」
パン、パパパパン!!
大きな爆発音と閃光が走った。
しかも一発だけじゃなく、何発も。
さすがに、目が眩んだ。
烝とが立ち上がると、バッと黒い影が飛び出してきた。
「ッ!!上へ行ったヨ!!」
新八の声を確認せずとも、目の前には鉄之助。
「鉄…?」
が眉を寄せて恐る恐る尋ねた。
「市村…やないで!!、下がっとけ!!」
烝が叫んでクナイを投げるのと、鉄之助がニタァと笑うのはほぼ同時。
ボォン!
そんな鈍い音がしたかと思うと、辺りに煙が充満した。
「け、煙玉…!!」
だが、は見逃さなかった。
ざっと出てくる小さな陰を。
「烝っ、追うよ!!」
「あ、あぁ!!」
2人は屋根から飛び降り、鉄之助を追った。
その頃、屯所、副長室。
「や、やられたぁぁああぁぁあああ!!!!」
「ひ、土方サン!!落ち着いてくださいッ」
「これが落ち着いていられるか!!総司!!お、俺の…」
そこからは言葉が続かなかった。
泣きそうな土方なんて初めてだ。
興味深そうに眺める平助と佐之。
「副長!確認してきましたが、市村は今夜部屋から出ていません!!」
報告する新八に、総司はぎりっと奥歯をかんだ。
「やはり…!!!」
「な、な、な、お前等奴を追いかけろ――――!!!!」
髪を振り乱して土方は叫んだ。
「ひぇぇえぇえ!?副長ご乱心!?」
「み、見るな平助っ!目を合わせるな!!」
「行くぞっ!」
3人は取り敢えず、外に出る。
「三手に分かれるか?」
「そうだナ…手分けしてこの辺回ってみよう。見つけたら笛を」
「「了解」」
新八の言葉に2人はうなづき、それぞれ屯所の周りを見て回ることになった。
屯所から少し離れた場所。
狭い小路を軽快に駆けていく鉄之助。
結構速い。
監察方である烝、隊内でも俊足を誇るが追いかけようにもどうにも追いつかない。
「、挟み撃ちするで!!お前は向こうへ!」
「りょーかいッ」
と烝は分かれて、鉄之助を追うことになった。
次項。
〜 第四夜 対峙と正体 〜
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ハイ、出てきました。
何でー鉄之助かッ、美男子かと期待しちまったじゃねーか。
って人ー。うふふ。(何
それではまた次回!