【PEACE MAKER】      〜例えばこんな逸話〜    十



「総司、大丈夫?」


「あはは、大丈夫ですよ」


あたしたちは暗い家路についた。



「綺麗な満月ですねぇ」

コホ、コホ、と軽い息の抜けるような咳をしながら総司が呟く。


…いつからだっただろうか、総司のこんな咳は。


あたしは怪訝に眉を寄せる。


「どうかしましたか?」

「え?うぅん、別に。…副長怒ってるかなぁ…」

「きっと怒ってますよ」

「…きっと新八も怒ってるな」

「…恐らく」

まいったなぁ、と言いながら総司は笑った。


「あ」


前から灯り、あれは新撰組の見回りの提灯だ。


「見つかっちゃいましたね」

「そう言う誤解を生む言い方はしない方が良いと思うわ」

あたしがそう言うと、前の軍団もあたしたちに気付いた。




うわ…絶対面倒な事になる。




「沖田先生!」

「みなさんご苦労さまです〜」

見回り組の隊士に総司はヒラヒラと手を振った。

ちゃん!?」

「あらぁ?平助じゃない、今日の夜番は8番隊?」

「そうだけど…って、血が出てるけど!!」

「あ、うん、ちょっとね〜」

「ちょっとじゃないでしょ、これは!!」

平助がオタオタと慌てる。


いや、落ち着けよ。


「あたしより総司がひどいから」


手を貸してあげて、とあたしが促がすと平助が命令を出す。


あまり気にしてなかったけど、あたしも斬られたんだった〜。


腰から下、つまり帯から下が真っ赤になってた。





うわ…これ超お気に入りだったのに。





「どうしたっていうのさ、これ」


歩きながら平助はあたしに訊く。


「どうしたっていうか…普通に浪士に喧嘩売られた」

「わっ、何人!?」

「8」

「へぇ…強かったんだねぇ」

「油断してたのよ、2人共刀持ってなかったし」


コロン、とあたしは道端の石ころを蹴った。

総司は先に行かせた。

そして3人の生き残りの浪士も一緒に連行。





「は!!??」



「何」

「そ、それで8人ぶっ倒してたわけ!?」

「うん、でも不覚にも怪我。新撰組の名折れネ」

「いや上出来だろ!?俺は勝つ自信無ぇー!」

「一緒にいたのが総司だったしサ、楽々」

「…ちゃん、それ、俺は遠回しにショック」

「へ?そう??」

…あれ?何かクラクラする。

視界が揺れる。



ぐらっ。


体が、傾く。


「わっ!ちゃん!?」


「はれ??」

「やっぱ大丈夫じゃないんじゃん!」

「い、いや、あれ?」

おかしいな、大丈夫な筈なんだけど。

ちゃんっ!俺の背に乗って!!」

頭を抱えているとそう言われた。



見てみると、平助がしゃがんで背を出しているではありませんか!!




何してんのー!!!!????




「は!?」

「早く!!」

「無理!」

「何で!」

ずかしいから!」

「そう言う問題じゃないだろ!」

「でもヤだ!」

「〜〜〜〜!!!面倒くさいっ!」



ガバッ!



「ギャア!!!!!」

いきなり視界が変わる。


何するのさ!?


平助はあたしの方を向き、正面から抱えてきた。



これって、これって、世に言う…





お姫様だっこって奴ですかー!!!!!?????





「さーぁ、走るぞー!!」

バカ平助!下ろせ、下ろせぇー!!」

「バカは無いでしょー!」

「バカバカバカ!バカ平助!!」

走りながらバカなケンカ。




「君たちうるさいヨ」





「「新八(っつぁん)!!」」



気付くとそこはすでに新撰組屯所の門前だった。

「だからうるさいんだってバ、総司が大怪我して帰ってきたけど何事?」

暗闇から出てきたのは新八だった。


影っていた月光が光出す。



「って、わ!!!!!!!??平助!!??何してるの!?」

月光で見えるようになったのか、あたしたちの様子を見て新八が声を上げる。


驚いてる驚いてる。


「お姫様だっこ」

「は!?」

「いや新八っつぁん、落ちついて聞いてね、ちゃんも怪我してて…」

焦って平助が訂正を入れる。




!?」



「はい?」

「大丈夫なの?」

「うん、でもちょっと貧血気味かなぁ…」

平助に下ろしてもらって、あたしはにへらっと笑った。

「何処?」

「横腹」

「は!?」

「…でも帯のおかげで結構傷は浅いんだよね」





「バカ!!!!!!!」





「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃ」


新八が怒ってる。


…そりゃ怒るよね。


恐る恐るあたしは新八の顔を見てみる。




「…無事で良かったヨ」




ふぅ、と新八は息をついて、にこりと笑った。





わっ…。




あたしは思わず赤面した。


新八があまりにも安堵して綺麗に微笑むから。


何で?


…もしかして、この感覚って。


?…ってば」


「あ、何?」

「んー?早くあゆ姉のトコ行ってきな」

怪我、早く手当てしないと、と新八が中へ促がす。

「分かった」

あたしは部屋へ向かった。





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どんどん甘くなっていく予定。
ギャグ…一体どこへ…。