【PEACE MAKER】 〜例えばこんな逸話〜 八
いやいやいやいやいや…
ちょっと待て!!!!
あたしは急いで口を開いた。
「総司、あたしたち丸腰…って遅かったみたいね」
時既に遅し。
あたしは、ふぅと落ちつき払って溜め息をついた。
「ぁ、そっか、私刀持ってませんでした」
あはは、と笑って…言う事かッ!それが!!
あたしはまだ死にたくなーい!!
「そんな軽率な事を言うのはこの口かーッ!!」
「痛いです〜ほっぺた引っ張らないで下さいよー、〜」
目に涙を浮かべ、それでも笑っている総司。
「お前等、俺たちの事忘れてねぇか!?」
そこで初めて、あたしは前に立ちはだかった男たちへ視線を向けた。
「「ごめんなさい、忘れてたわ・忘れてました」」
ぁ。声そろった。
こう言う所は息ピッタリなんだから。
7人の男に見事に囲まれている。
あたしと総司は背中合わせに立った。
「フザけんじゃねぇー!!!」
男の1人が跳びこんできた。
あたしの、真正面。
「ッ!」
判ってるわよ。
総司の声を合図に、あたしは走ってくる男に向かった。
刀が月光に光る。
まず、第一太刀目。
それを後ろに跳んで避ける。
突きが、来る。
本能が訴えた。
その突きが来るよりも一瞬早く、あたしの足が地につく。
ついたら、“前”へ跳ぶ。
一瞬の間に全てを計算すると、あたしは眸の色を“変えた”
「ッ」
向かってきた男が一瞬だけ、息を呑みひるんだ。
ばぁかねぇ。
予想通りの突きが、予想より遅れる。
タンっ。
突きを逸らせて、前に出る。
本当は相手を飛び越えて、背後に回るつもりだったんだけど。
遅いからあたしから仕掛けちゃった。
そのまま、男のみぞおちに一発。
そして腕をとり、無理矢理に地面へ捩じ伏せた。
「ぐっ!」
うめきがもれる。
勝負有り。
しばらくは動けないでしょ。
刀を取り上げる。
「ふぃー」
軽く息をついて、刀を総司へ放る。
「大丈夫ですか?」
「見ているだけでよく言うわ」
「下手に入ると危ないでしょう?」
「良い根性してるじゃない…」
「違いますよォ。は1歩も2歩も前を読んでますからね、邪魔しちゃ悪いでしょう?」
あはは。
その通り。
あたしは先読みをするタイプの戦い方をする。
強い者ほど、あたしには勝てない。
対剣士の体術に関して、新撰組中であたしに敵う者はいない。と思う。
「それにしても遅くなりそうですねぇ」
「そうねぇ、困ったわ…副長の雷が怖い…」
「にも怖いものなんてあったんですねぇ」
「あら、意外?」
「えぇ。けれど、私も同感です。土方サンうるさいですからねぇ、早く帰らないと大目玉ですよ」
「本当に」
厄介だわ、とあたしが続けると。
「くそ!バカにしやがって!!」
それまで放心していたのか、思い出したように残りの男たちが一斉に走り出した。
「おいでませっ!」
あたしはまず1人の刀をすっと横に避け、手元に手刀を落とした。
カラン、と刀が落ちる。
「ちくしょう!」
手首を押さえ、ギっとあたしを睨む。
そして、後ろに気配。
前を向いたまま、視線と意識だけ後ろに飛ばす。
「ッ!」
総司の声が聞こえた。
分かってるわよ。
ちょっと、黙ってて頂戴。
すっと座って、落ちた刀を取る。
キィン!
耳障りな刀がぶつかり合う音。
「それで不意を突いたつもり?」
しゃがんだ姿勢のまま、あたしはゆるりと言った。
「あまり新撰組をナメない方が身のためよ」
後ろ手に受け止めた刀そのまま、相手の足を払った。
勿論相手は平衡を保てず、簡単に倒れた。
そして自分の持ってる刀を思いきり後ろに打ちこむ。
「がっ」
醜い音がして、もう1人も地に伏した。
「て、めぇ、何者だ」
「…女だからって隊士になれないワケじゃぁない」
すぅっと息を吐き、相手の喉元目掛け、あたしは刀を垂直に落とした。
ザンっ!
それは、男の首ではなく、地面に突き刺さった。
さっき、手刀を食らわせた奴が立っていた。
ゆらりと、流れるような動作で敵は近づいてくる。
一瞬の間。
ゆらり、とした調子が一変、気がついた時には相手の刀があたしの頭の上に迫っていた。
「ッ!!」
キィン!
あたしはやっとのことで刀を受け止めた。
相手の刀を弾く。
しかし、相手もそう弱くない。
総司に喧嘩売るぐらいだもんね、当然か。
相手は弾かれた勢いまかせに、ブンと刀が空を斬る。
避けきれない。
…これだから、あたしは剣術は嫌いだ。
ザン!
横腹に焼けるような痛みが走る。
なぎ倒そうとする相手の力に逆らって、あたしはぐっと足に力を込めてふんばった。
そして、ニヤリと笑ってみせる。
「なっ!」
驚嘆、と言うよりは脅威の呟き。
じわっと生温かい物が着物に染みる感じ。
不快だ。
ちっくしょうめ。
あたしは心中で悪態をつく。
「これだから、剣術は嫌い」
口にも出してみた。
横腹の刀を抜く。
相手は2本目の刀を構えている。
一気に縮まる間。
刀がぶつかり合う。
相手の力をいなして受け流すとあたしは刀を捨てた。
さして使えない刀は邪魔だ。
まず、しゃがんで相手の足を払う。
そして遠心力を利用して、足を振り上げた。
逆さの状態で相手の顔へ蹴りを御見舞いする。
「ありがたく、受け取りなっ!!」
刀があたしにあたるより速く、あたしの蹴りが相手にあたる。
ゴキッ。
嫌な音がして、相手の顔の骨格が歪んだ。
うん。
大成功★(やりきった笑み)
そして、フと総司の方を見る。
勿論そこには総司しか立っていない。
総司の顔には何滴か血が飛んでいた。
その綺麗な、しかし鬼気迫る冷たい表情が張り付いている顔がこちらを向いた。
「総司〜」
ひらひらと手を振ってみる。
「…ッ!!?」
はい?とあたしは笑った。
「血が出てますよ!?」
総司がかけよってくる。
「あー…そりゃぁ出るでしょうねぇ」
斬られたんだし。
「大丈夫ですか!?」
「んーまぁ…浅いし…かすり傷よ」
「大丈夫じゃないですね!!」
「あのぉ…総司?」
「早く手当てしないと!!」
あたしの手をとる。
やれやれ、とあたしは頭をかいた。
それで、気付く。
「ッ!」
簪が、無い。
あたしは急いで辺りを見回した。
「どうしたんです?」
「簪!!」
「は?」
「簪が無いの!!」
あたしは地面に手をついて、目を凝らした。
辺りはもう暗くて、月光しか頼れない。
「、簪ならまた明日探しましょう、ケガの手当てをしないと…」
「でも」
それじゃぁダメなの。
あたしの気が済まない。
かがみこんで、地面に目を凝らす。
「、お願いですから」
もう帰りましょう。と総司の声が後ろで聞こえた気がした。
それも耳に入らない。
あたしは、簪よりも先にあるモノを見つけてしまった。
―次→
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はい、一気に急展開★
サィトの10000ヒット、ありがとうございます。
これからもヘタレーな管理人のヘタレーな作品たちを
よろしくお願いしますネ↓。