【PEACE MAKER】 例えばこんな逸話 SECOND STORY
拾五 〜END AND SOMEDAYS〜
「終わりましたねぇ」
「ねぇ―――…」
あたしは緑茶をすすりながら相槌を打つ。
病床に伏せっているのは総司…伏せって………
「はぁーい、サイゾーとってこーい★」
ブォンと何かを投げては、サイゾーに取ってこさせてい、る!!!
「痛ぇ!!」
総司の投げた何かがあたしの頭を直撃した。
「あ、。ごめんなさい」
「それ謝ってる〜?」
じとり、と眼を座らせて訊くが威力はなさない。
「、起きてて大丈夫なんですか?重症だって聞きましたよ?」
「総司よりはマシよ」
「病人じゃありませんっ!返り血がですね!こう喉に入って咽ちゃったんです!!」
「はいはい」
むーっと拗ねる総司に向かって、あたしは笑いかける。
「総司、いっか〜?」
開け放たれた戸の向こうから、佐之の声。
「いるに決まってるだろ〜、ったくバカなんだから佐之はー」
「平助、くれぐれも総司の部屋でその手の発言は慎んでくれヨ?」
そう言いながら姿を現した漫才三人組。
「あれ?も居たんだ〜」
「やっほ、平助、額の調子はどう?」
「ん〜?が抱きしめてくれたら治るかも〜」
「あはは、藤堂さん、そんな事したらその額の傷二度と塞がりませんよ♪」
総司くん…←泣きながら。
「なぁ…何かここ寒くねぇか!!??」
「お前は黙ってろ、佐之…」
「おっきたさ――――ん!」
バーン!と逆側の襖が開く。
「あ、鉄クン。こんにちわー」
「こんにちわ…っと、みんな居たんだ」
鉄はきょとんとあたしたちの面々をそれぞれを見る。
「鉄と…あれ、珍しい。烝だー」
「、お前寝とらんとアカンやん」
「…イーのイーの、気にしなぁーい気にしなぁーい」
脱力する烝に、あたしはニカっと笑いかける。
「そう言えば、今年もやるそうね、祇園祭」
隊士が言っていたのを聞いた。
「やるんだ、祇園祭!!」
目を輝かせて鉄が身を乗り出す。
「ヤッター!俺こっち来て一度も見てね―――んだ!」
「あ、そうなの?」
「しっかし血生臭え直後によくやるよなァ!逞しいぜ、京の連中はよォ」
「事件の当事者が言える言葉でもありませんけどね」
あはは、と笑い声があがる。
でも、本当にそう。
「でも確かにねぇ、今年は中止になると思ってた」
「だねェ、でもやってくれると嬉しいよネ、なんか」
「そうね、あたしたちも何か救われるわよね」
くすくす、と笑みをつけて返す。
「今年は追加で花火もちょっと上げるらしーよ。
なんでも池田屋での発行弾?アレ見た奴結構居たみたいでさ」
っへぇー、御手柄じゃないの、烝。
「おおっ!!」
目を輝かせるのは佐之。
「あれ助かったぜー!でもよ、まだ誰が上げたか分かってねぇんだろ!?」
「俺はブッ倒れてたから違うぜ?」
「イヤ、誰も思ってないから」
その会話を尻目に、あたしと鉄の視線が烝に集まる。
プッ。
可笑しくなって笑いをこらえてると、視線。
ギロン!!
ひぃっ!!
す、烝さん、その顔はちょっと放送禁止じゃないですか…?
すごい形相で睨んでくる烝から目を逸らした。
「よっしゃ!!ココは昔みてぇに屋根の上で酒でもやりながら、のーんびり……!!」
「そいつぁ駄目だ」
ひ、土方さん…!!
どっから現れたんすか!!
「、本当に大丈夫なんですか?」
「え…?あぁ、大丈夫よ?総司こそ…」
あたしが動揺してたのは土方さんの登場の仕方だから。
「大丈夫ですってば!も祇園祭行くんですか?」
「…どうしようかなぁ」
みんな行くだろうし…だけど総司は行けないわよね…。
大丈夫大丈夫って言っても、床から離れられないんじゃぁ。。。
そんなに悪いのかな、なぁんて思ってしまう。
総司に限って、そんな。
そう思ってあたしの中の一抹の不安は消えていった。
「なんてこった!!ドコで打ち上げんのか聞くの忘れてた―――!!」
頭を抱える新八。
「「何―――――!!!」」
「まぁったく、変なところで抜けてんだから…あたし知ってるわよ」
やれやれ、とあたしは首を振った。
「いい度胸だ、てめぇら…そして、お前も黙ってろ」
「大丈夫っスよ、土方サン!」
立ちあがった新八が言いかける。
「もしもの時はこの格好のまま戦えるし。屯所に戻れないなら外側から蹴散らしてやりゃあいい」
「そうそう、土方さんってばあたし達の事見くびってません?」
あたしはくすくすっと笑って立ちあがった。
「ってば、天狗になってんじゃない?」
「あら?手厳しっ。でも池田屋だってなんとかなったし」
新八のツッコミに、ぺロっと舌を出しておどけた仕草をする。
「そうそう、新撰組ぁは強いしね。どうにかなるっしょ!」
ちょっと虚を突かれたような土方さん。
「すぐ連絡の届く所に居ろよ」
「わぉっっ、土方サン太っ腹ぁ!」
わーい!と喜ぶ3人。
良いなァ、若くて。
「イイんですか!?何か土方さんらしくないっつーか、気持ち悪いっつーゴツッ!いてぇ…」
「土産買ってくるかんな―――総司ッ!!」
「はーい、じゃぁ皆様行って参りまーす♪」
新八の後に続いて、あたしは向きを変える。
「じゃぁ行ってくるね、総司」
「はい、楽しんできてくださいね」
何かが心の奥にひっかかったけど、あたしはそれから目を逸らせた。
「――――!何してんノ、おいてくヨ!!」
廊下の向こうで新八が呼んでる。
「わっ、待ってよ〜」
「はどうする?着替える?」
「え、良いよ〜、このままで」
「そう?」
そんな会話をしてると、後ろから足音。
「さん!!」
「…?はぁい?」
どちら様?
あたしは首を傾げながらも振り向いた。
「あ、あのっ!一緒に祇園祭行きませんか!!」
「あ、え、えーっと…」
ってか、まず誰だ。
「っ、二番隊所属の唐沢くんだヨ」
「あ、どーもどーも」
新八の耳打ちに頷きつつ、前の少年を見る。
「悪いけど…」
「で、できたら付き合って欲しいんですけどっ!!」
いや、人の話聞いてるかな、この人。
「…悪いけど、唐沢くん?初めに言っとくわ…あたしはあたしより強い人にしか落ちないから。
まずはそれよね、それから…新八に勝てたら考えても良いわ」
くすっと笑いを含んで、そしてチラっと新八を見る。
ちょっと照れた様に、だけど挑戦的に笑ってる。
「そうだね、とお近づきになりたいならまず俺を倒さないと」
ネ?と少年に笑いかける新八。
あー…何かビビってますヨ、少年。
「は、はいっ、すみませんでしたっ!!」
走り去る少年。
「ガラ悪いよー?永倉隊長?」
「なぁに言ってんのサ…まったく、俺を利用しないでヨ」
「利用なんてしてないもん」
プィっとあたしは視線を背ける。
「、それどう言う意味…「おー、準備できたかー?行くぞー!?」
新八の言葉を遮って、佐之が庭先で呼んだ。
「はいはーい!!、一大提案します!!」
手を挙げて自己主張。
「はい!どうぞ、さん!」
ふざけて平助が乗ってくれる。
「あたし、好きな人いるんでその人と2人で行っていいですか!!」
あたしは3人の顔をそれぞれに見る。
「本当!?、行こうよ!!」
「ごめん、平助じゃない」
「じゃ、じゃぁ俺か!?」
「ごめん、佐之じゃない」
あたしは最後の1人に視線を移す。
「行ってくれるよね?」
ねぇ新八、あたしあなたが大好きなの。
だってね、あいつと戦った時真っ先に出てきたのは新八の顔だった。
いつだってあたしはあなたの存在を感じていたし、これからも感じていたいから。
「勿論。行こうか、」
新八は優しく笑んであたしの手をとる。
「ありがとう」
後ろで2人がうるさいけど、あたし達には関係無い。
あたし達は、お互いがいる限り、どこまででも強くなれる。
「…?」
寝ちゃったの。新八は問う。
布団に横になったは、本を手に持ったまま寝てしまったらしい。
「全く、俺も信用されてんのかされてないのか」
そう呟くと、新八はにくちづけをする。
触れるだけの、優しいそれ。
「ん…」
パタ、と持っていた本がの手から落ちる。
だけど起きる気配は無い。
新八はそのまま、口を下へズラしていく。
今度は首筋、鎖骨へとくちづけを落とす。
それではみじろきをして一言。
「新八…?あのさ、眠いから後で」
ズルっ。
新八は体を起こすと一瞬拗ねたように襟を直す。
だけどすぐに笑顔に戻る。
(まぁったく、可愛いんだから)
しょうがないなァ、なんて1人で呟いてみる。
今日のところは寝顔だけで我慢するとしよう。
新八はの隣に寝転ぶと、の寝顔に満足げに笑いながら目を閉じた。
「あれ…もう夜?」
いつの間に寝ちゃったんだろ、とは頭をかく。
そして何故、隣に新八が寝ているのかもついでに自問する。
(新八ってば本当寝顔可愛い〜、うん、平助が小動物ってからかうのも分かるわ)
的を得てるわぁ、などと1人で納得してみる。
「いたずらしちゃえ☆」
はその無防備な頬にくちづけをする。
この2人、どっちもどっちである。
新八の頬から顔を離そうとした、その時。
「わっ」
は腕を掴まれ、新八の胸の上に落ちた。
「し、新八起きてたの!?」
「起きたんだヨ、にしてもに寝こみを襲われるとは思ってなかったけどネ〜」
「ち、ちがっ」
「何が違うの?」
確信犯だ。
はそれ以上何も言わなかった。
くるん。
「へ?」
新八は態勢を変え、を下に自分を上にする。
「やるんデショ?続き」
「や、や、ちょっと待って!」
「何でサ…さっき後でって言ったじゃない、良いデショ?」
今度こそ、と新八は意気込む。
「いや、心の準備が…」
は新八から目を逸らす。
「要らないよ、なんの準備も」
新八は一端言葉を切る。
「だって俺は何年も待ったんだから。
ネ?…俺だけのになって」
月の光りが逆光になって、には新八の顔が見えない。
だけど、新八には見える。
「はい」
語尾は震えてて、声もか細かったけれど。
新八にはちゃんと伝わった。
失いたくない物ができました。
それは壊れやすくて、消えやすい物だけど。
きっと2人なら守っていける。
この世界の片隅で起こった語られる事の無い出来事が。
いつの日か「こんな事があったね」なんて笑って話しながらお互いの存在を証明できるなら。
その時には、あなたが隣にいますように、ただ、そう願って。
〜例えばこんな逸話〜 全29話 完。
後記。