【PEACE MAKER】 例えばこんな逸話 SECOND STORY
七 〜MY PRINCIPLE IS FAITH〜
「アユ姉!」
「あら、ちゃんやないの。どうしたん?こないな時間に」
今はもう宵闇。
眠れなくて襖を開けたら、アユ姉がいた。
烝かと、見紛うほどに、よく似た。
あたしは眉根をぎゅっとよせる。
「…仕事?」
「そうや…ちゃん、どっか悪いんか?顔色すぐれへんで」
「…別に」
「別に、は禁止やって前言ったやろ?」
「だって」
「だって、何や」
だって、訊いたら答えてくれるの?
最近何してんの?
手伝おうか?
大丈夫?
…明日帰ってこれる?
どれも、はっきり答えられないものばかり。
それが判るから。
自分が厭になる。
「ちゃん?」
「だって」
あたし、あなたを失うのが怖いんです。
「もう何やの…鉄之助君といい、若いくせにアカンで」
「アユ姉だって若いじゃない」
「そりゃそうや。うちなんてピッチピ「じゃぁ。これからが盛りだよね」
アユ姉の顔が見れない。
「ちゃん」
「アユ姉…あのね「ちゃん、黙って」
ばっとあたしは顔を上げる。
「お願いが、あんねん」
あたしは。
黙って聞くしか、無かった。
止むことを忘れた雨の音が、不安を駆り立てる。
「それでも人間かよ!!?」
ッ!!??
寝ちゃったのか…。
まだ、雨降ってんだな。
耳鳴りのようなそれが、あたしの神経を逆撫でした。
髪をかきあげ、外を仰いだ。
…コホッ。
小さな咳をして、廊下に出る。
さっきの声は鉄のだ。
何か、あったんだろうか。
ドンっ!
出たとたんに、小さい子にぶつかられた。
「鉄っ」
「あ……」
目の前にいたのは、今にも泣きそうな顔をした、鉄だった。
「…はい、落ち付いた?」
温かい緑茶を差し出しながら、あたしは言った。
「うん…ありがと、」
「いえいえ。で、何かあった」
「…」
黙秘権ですか。
こういう時、疑問形で訊かないのが悪い癖だと、新八に言われたっけ。
「は、アユ姉のしてる仕事が何か、知「訊いてどうするの?」
「え?」
「訊いた所で、鉄には何もできないんだよ。アユ姉を止めにでも、行くつもり?
そんな事したら、あんた殺されるよ」
ハトがマメ鉄砲くらったような顔しないでよ。
「で、でもッ」
「でも、何?」
「…っ」
気圧されながらも、鉄は口を開いた。
「は何とも思わねぇのかよっ!!?アユ姉が、アユ姉が…その…」
「死んでも?」
「言うな!!」
ぎしっ。
心の奥底が軋んだ気がして、あたしは拳を握り締めた。
「烝と同じ事言うんだな、も」
「は?」
「烝も、同じ事言ってた」
「あぁそれで…怒鳴られたって訳」
「…アユ姉、オレに頼んだんだ。アイツの事、頼むって。でもアイツは」
「…何とも思わないワケ、無いじゃない」
あたしにとっても、アユ姉は温かさを教えてくれた女性。
本当の姉さんのような、存在。
「この屯所にいる誰もが、それを望んではいない。
だけど。ダメなんだよ、鉄」
あたしは下を向いて、畳を睨んだ。
「鉄は、新撰組に居ると言う事の本当の意味を知らない」
それは鬼になるとか死すら恐れないとか、そういうことじゃなくて。
「死を恐れない人なんていない。総司も、新八も、土方副長も、死は恐ろしい。
だけど、あたし達にはそれさえも見据えなければいけない時がある」
死に自らを投じなければいけない時が、ある。
きっと。
大切な人を護ろうと思う時、それは。
揺るぎ無い決意に変わる。
「アユ姉の心を無駄にしちゃいけない。鉄は鉄のすべき事をしなさい」
あたしは鉄を見下ろしながら、言いきる。
アユ姉の願い。
「でも、ダメなんだ。オレ、あいつを怒らせるしかできなくて…」
鉄は鉄であたしの方は見ない。
「それでも、鉄の言葉は烝に伝わるよ。だって、アユ姉が鉄に頼んだんだもの」
大丈夫。
ばっと顔を上げた鉄へ、あたしはうなずいてみせた。
それでも、鉄は不安げに眸を揺らすばかり。
サテ、と。
あたしは立ちあがると、部屋を出ようとした。
「?」
「…鉄は、鉄のすべき事を。そして、同時に、あたしはあたしの出来る事を。
あたしもアユ姉と同じ、志を同じくした新撰組の隊士。
信条は―――――……誠よ」
部屋を出て、廊下を進み。
あたしは烝の部屋へ向かった。
雨はいっそう強くなるばかり。
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おいっす。
1回消えて、また書きなおしました。
何かあたしって、1回目より良いモノ書けないんですよねぇ。。。
何でカナ…。普通は推敲して良くなる筈が。
まぁ…気にしない気にしない。
ここまで読んで下さりありがとうございました!