【PEACE MAKER】 例えばこんな逸話 SECOND STORY
九 〜TEARS ARE BECOMING HARD−AND−FAST DECISION〜
「、ちょっと休んだら」
新八に声をかけられて、あたしは我に返った。
「ネ?」
優しい声。
「うん…」
あたしがあぁ行動していなければ、アユ姉は死ななかったのに、と思う。
だけど、あぁ行動してなければ、アユ姉は怒っただろうな。
己の無力さに、そして勇気の無さに吐き気がする。
何が、失わないために、よ。
滑り、落ちていってるじゃない。
『もっと大事に抱えてなきゃダメでしょ』
あの男の声が耳元で響いた気がして、あたしは屯所を飛び出した…。
空は青く澄んでいて、憎らしい程に快晴。
上を向いて歩いていたら、ドンっとぶつかった。
「あ、すみません」
謝ると、向こうもペコリと頭を下げて謝ってきた。
「す、すみません!」
激しく頭を下げるものだから、袋の中の物がバサバサバサー!と派手に落ちた。
忙しい子だな…。
あたしは呆気にとられながらも、拾うのを手伝う。
するとその子がお茶をおごってくれると言った。
見ると、鉄と同じぐらいの少年(あぁ、背丈で判断しちゃダメよ?)だった。
何だか年下に奢られるのって、こそばゆい。
「本当にすみませんでした…ぶつかっておいて、荷物まで…」
白髪、色黒。
…この子ジャパニーズですか?
「日本語上手イネ、少年ヨ」
「いや、自分日本人なんで…って言うか、何であなたがカタコトなんですか」
「日本人ナノ!?ワー…オ姉サンビックリダYO!」
「…そうですから…いい加減カタコト止めてください」
キッパリといわれて、あたしは口を閉じた。
ジャパニーズな冗談だったのに。
「名前なんて言うの?」
「えーっと…鈴です、北村鈴」
「へぇー、北村くんね…武家の子?」
「…え?」
「帯刀」
「あぁ…はい、まぁ…」
でも北村なんて名前聞いた事が無い。
もしかしたら長人カナ★
…なぁんて笑えない冗談は止めとこう。
「あの、あなたは」
「あたし?あぁ、あたしは」
一応苗字は伏せておく。
知ってる人は、知っているから。
万が一って事もあるしね。
「さん…?は、あの、どうして泣いてたんですか?」
「…ぇ…?」
「あ、あの!変な意味じゃないんです!ただ、気になって…その…」
慌てて北村くんは首と手を振った。
「プっ」
その仕草が可愛くて、思わず吹き出してしまった。
「わ、笑わないでくださいよ…」
照れてる仕草も可愛くて、猶も笑ってしまう。
「ごめんごめん…今日ね…あたしの大切な人が、死んじゃったんだ…」
「あ、ご、ごめんなさい…」
「良いの良いの!そんな気を遣わなくて…あたしを妹みたいに可愛がってくれた人でね…」
そう、アユ姉はあたしをめちゃめちゃ可愛がってくれた。
悩み事は何でも相談した。
隊務で人を斬って凹んでる時も、アユ姉に泣きついた。
土方さんへの愚痴だっていっぱい聞いてもらった。
なのに。
あたしはあの人に何をしてあげられただろうか?
最期まで、何もしてあげられなかった。
「そうなんですか…」
「北村くんはさ、兄弟は?」
「…いました」
「って事は…」
「昔、死んじゃいました」
苦笑まじりに北村くんは言う。
その笑顔がまた痛くて、胸の奥が軋んだ。
「悲しいね…」
「はい…」
本当は悲しいなんてもんじゃない。
怒りと憎しみでハラワタが煮え繰り返りそうだ。
仇を討ちたい。
だけど、それは誰にも許されていない。
…分かってる、どんなに悔しくても。
「北村くんはさ、人を殺したいほど憎く思った事、ある?」
「あります」
「…そ、うなんだ」
あたしは一瞬面食らった。
だって北村くんが即答して、余りに真剣な目をしてるから。
「殺してやりたい、本当に。この刀で」
「あたしも…いるよ、殺したいほど憎い人」
「…もしかして、その人殺されたんですか?」
って事は、北村くんもか。
「そう…北村くんも?」
「はい」
「じゃぁ仇か」
「はい」
「さんは?」
「え?」
「仇、討ちたいですか?」
「…どうかなぁ…」
そんなの当然100回殺しても足りないくらい憎いけど。←怖ッ。
改めて聞かれると、口出して言えない。
「でも殺せないかな」
「え?」
素っ頓狂な声を出すものだから、また笑えた。
「そういうモンでしょ、人間って…どれだけ憎くても、殺せないもんなんだよ」
きっと。
なぁんて取り繕った。
でも、本当そう思う。
「そういうもんですかねぇ…」
「そう言うもんだと思うなァ…それにあたしは無力だし」
流れには逆らえないよ、と呟いてみる。
「そんな事無いですよ!!さんの事何も知らないけど…
でも俺は今日あなたに会えて良かったと思いますよ?だから、きっと」
にっこりと北村くんは笑ってくれた。
「あ…りがとう…」
だからちょっと動揺した。
「それじゃぁ、俺はこれで…」
立ち上がった彼の袖を引っ張る。
「?」
「ま、ここはお姉さんに任せなさい★」
やっぱり年上が払わないと。
「いえ、俺が…!女性に払わせるなんて…」
「あ…そっか…でもまぁ良いって、あたし潤ってるから」
ね?とウインクブチかまして、あたしは勘定を済ます。
そっか、男所帯にいるから気付かなかったよ、世間の常識。
いつもは新八や総司とだから割勘だもんなぁ…。
すっごい損してた気分。
「すみません、何から何まで…」
「いえいえ、それに話も聞いてもらったし…その御礼♪何か気分晴れてきた」
明日からも頑張るぞー!とあたしはノビをする。
本当に、そう。
きっとあのまま独りでいたら、あたしはどうしてたか判らない。
知らない北村くんとだからこそ、一緒にいてもらえて助かった。
「それじゃぁ…」
と、北村くんが向きを変えるとバン!!と人にぶつかった。
…よくぶつかる子だなぁ…。
「いってぇな!!何すんだよ!?」
「すみません」
うわぁ…明らかにガラ悪いでしょ、あの男たち。
「謝ってんのかよ、それで!!」
しょうがない、助太刀するか。
「ごめんなさい、弟が無礼を働いたみたいで…」
「え!?」
北村くんが目を丸くする。
不貞浪士(十中八句そうでしょ)は、あたしの超絶悩殺笑顔に悶絶している(←ただの妄想)
「…ったく、どこに目ェつけてんだ、このチビ!!」
ブチィ!!
あら?何か切れました?
「だぁれがチビだってぇ!?」
あ―――!!刀抜いちゃった――――!!!!!
あたしの笑顔で許してもらえたってのに、この子は…!!
「やんのか、オラ!!」
あぁ〜もう、いい加減にしておくれ。
「北村くん、君はここで目立って良い人?」
一応聞いてみる。
「やべぇ!!」
またやっちまった…と彼は続ける。
「でもそんな事言ってられません!!さん、逃げてください!」
北村くんがあたしを背に庇い、叫んだ。
「行くぜェ!」
浪士が斬りかかってくる。
はぁ。。。
特大の溜め息とともに、あたしは北村くんの肩をひっつかんで後ろに圧し戻した。
「…良いの良いの、北村くん、逃げて?」
「え?」
「こういうの得意だから」
そう言い捨てるより速く、振り下ろされた刀をスィっと避けて蹴りを一発。
「こう見えて、道場の娘だから」
嘘八百。
「早く!!」
北村くんはびくっと肩を震わせて、まだ迷っているようだったが、結局走って逃げた。
正しい選択よね、まぁ男としてはどうとは思うけど。
「へっ、虚しいねぇ。あれでも男か」
他の男たちが言う。
あと2人か。
「えーっと、あなたたちは?訛りは無いけど、京の人じゃないわよね?」
「それがどうした」
「不貞浪士の類は、入洛を禁止されてる筈ですけど」
そう言うなり、あたしはかかってきたヤツ等をボッコボコにのした。
だって、ストレス溜まってだんだもん★←やりきった笑み。
屯所に戻ると、屋根から降りてくる鉄の姿を見つけた。
上には…烝がいた。
あたしは木をつたって屋根へ昇った。
「『ススムー!』」
声をかけるとヤツはバッとこちらを向いた。
「なんや…泉か」
「似てた?可愛いお友達ができたわね」
くすくす、と笑いをつけてあたしは言った。
「…まぁ、な」
「あら新鮮な反応」
「どう言う意味や…」
「いつも年増のじぃさんみたいな性格してたからサ、君」
よっと、あたしは烝の隣に腰を降ろす。
「余計なお世話や」
「でもさ、烝、あたし判った事あるんだ」
「何や」
「鉄は、きっとあたし達より強い」
そんな怪訝な顔しないでくださいよ、烝さん。
「そうやな、少なくとも俺等では敵わんらしい」
自嘲気味に笑ってそう続ける。
「…それよりお前、何処行ってたんや?」
「え?」
「さっき、門から入ってきたやろ」
「…なぁに、こんな状態でも烝くんはあたしの事見ていてくれるんだー?わー、泉ってば愛されてる♪」
「茶化すなや」
つまんないわねぇ。
「…別に何処も。ただ、外に出たかっただけよ」
「そうか…」
「あんたは?」
「?」
「決意、できた?」
「まぁ、な……」
「わー、鉄のおかげかしら」
「…今回ばかりは、負けた」
「やっぱり敵わないな。まァ良いんじゃないのー?それも」
「そうやな…」
吹っ切れたような烝の笑みと、その言葉が風に乗って、アユ姉に届いた気がした。
仲間を失って後悔するのは、これで最期。
そう、涙は硬く強固な意志に変わる。
―次→
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はい、北村くん登場。
キャラ違うねぇ…アハハッ!←笑うな!
だんだん近づいてきました、池田屋!
てか、見ましたか!
スマステ!
最高でしたよね!!!!鼻血。