「総悟さーん」

ほら、また無視する!
めげない私も私だけど、無視をする総悟も総悟だ。
街で会ったというのに、視線もくれやしない。
だけど知ってるんだ。

「総悟、総悟、バカソーゴ!」

走り寄って覗き込むように見上げる。

「何でィ、バカ

総悟はふっと口の端だけ上げた嘲笑のような笑いをこぼして、私を見た。

「今日は何の日でしょう!」
「空から大魔王でも降ってきて地球が滅亡でもしちまう日ですかィ?」
「そんなわけないでしょ、つまんない」

ぶーっと少し引いた目で見てやると、総悟は肩をすくめた。
ちょ、何その反応。
引いてるのはこっちなんですけどォォオォオ!

「今日はバレンタインだよ、」
「あぁ、だから」

総悟は手をぽんっと叩いて納得の意を示した。
そうそう、と私は頷く。

「て事は大魔王は地球でも世界でもなく、俺を滅亡させに来たってわけですかィ」
「そうそう、って、エエエエエエ!ちょ、どうしてそうなんのォォオオ!」

私は総悟の肩を掴んでゆさゆさと揺さぶった。
彼の栗色のさらさらヘアーが揺れる。
相変わらずせりふに愛情がこもってない。
冷ややかでいて毒舌だ。

「どうせ、アンタもチョコを作ったって言うんだろィ?」
「正解」
「そんなの罰ゲーム以下の何物でもねェじゃねェですかィ」

さらりと言いやがった総悟の頬を思いっきり抓る。
白くて綺麗な肌がみょんと伸びる。

「彼女のチョコを罰ゲーム以下なんて言うのはこの口かァ!?」
「いででで、止めてくだせェ、どうせウンコみてェなチョコに仕上がったくせに」

失礼な!
いくら料理の苦手な私でもチョコがウンコになるわけないだろ!?
頬抓られてもなお減らず口を叩いて悪態をつく総悟。
私は抓っていた手を離して、ふふんと自慢げにふんぞり返る。

「総悟!期待してくれていいよ!今回はどろどろぐっちゃーにはならなかったから!」
「当たり前だろィ、溶かして固めるだけのチョコ作りの工程結果がそれじゃチョコを生み出した奴もびっくりのミラクルでさァ」
「何をぅ!?チョコ作りなめんな!?」

溶かして固めるだけのマジチョコがあってたまるか!
ちゃんと溶かして固めて塗したわ!
総悟は自信満々そうな私の顔を訝しげに見た。

「アンタは料理をなめすぎなんでさ」
「黙らっしゃい!目に物言わせてやる!」
「そこまで言うんならちゃんとしたモンできたんだろうな?」
「期待しててよ!今夜渡す!」
「今じゃねェんで?」
「うん」

大いに頷くと総悟はきょとりと首を傾げて、

「分かりやした」

にこりと笑った。
今の顔可愛いなぁ、そう頬が緩むのが分かって、私はあわてて頬を押さえた。
日ごろ憎たらしいのに、時々こういう顔をするから始末に負えない。

「どうかしやしたかィ?」
「べ、別にっ」
「変な奴」
「うるさいなぁ!じゃ、夜にね!」














後編*夜。

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後編に続く。