【PEACE MAKER】      〜例えばこんな逸話〜    十四



はぁ…。

新八が去ったあと、独りあたしは空を見上げた。


星が、綺麗だ。


頃は初夏。

蒸し暑い…それと。

さっきの出来事で体が火照ってる。


「何でかなぁ…」


あたしははぁ、ともう一度呟いた。


…。


あぁ!!!



厭。


こんなのあたしじゃないし。



月も高いし、庭には誰もいない。

ただ、見張り番と松明の気配があるだけだ。


よっ。


あたしは庭先におりて、井戸に近づく。



フッフッフッフッフ。


やりますか。


「やりますか」


ニヤリ、と独り不気味に笑みを浮かべ、あたしは汲んだ井戸水を頭からかぶった。





バッシャーン!





お、音デカッ!!!



辺りを一応見まわしてみる。


誰も居ない☆



「はぁ…」



あたしはまだ水の滴る髪を掻き揚げた。


あたしが来てるのは白単。いわゆる寝巻きね。


さっきまで上に羽織っていたのだが、脱いだ。


だってあれは、アユ姉からもらったもの。




「新八…」




夜空に、それだけ虚しく響く。



「なぁにしてるんですかァ〜?」




「ぎゃ!!!!」




急に声かけないでよ!!



「ギャって酷いですねぇ、お久しぶりです、


「お久しぶりって、総司…あんた大丈夫なの?」

「大丈夫ですっ。こそ何してたんです?」

「ん〜、ちょっと禊を」



こんな血生臭い庭で禊もなにも無いか。



「ちょ、ちょっと!上着着てくださいよ!!」


あ〜。

水浴びたから、着物が透けてる。

はいはい、ありがちで新鮮な反応ありがとう。


でも、生憎。


さっきの出来事で、これくらいじゃ慌てないのよ!←違う。



ザッと草履が庭を蹴る。


顔を上げると、総司と目が合った。



顔赤くしちゃってかぁわぁいぃいぃ〜な、この野郎☆



「何照れてんのよ、可愛いな☆


「その反応は何か間違ってる気がしますよ?少しは恥らって下さいよ。

 それに…ってば…意外に胸あるんですね」



失礼なッ!



「ちゃっかり見てんじゃないわよ…イヤン、バカン☆★☆★


「…あはは、斬りますよ?それに…良いじゃないですか、減るもんじゃないですし♪」



爽やかな笑みを浮かべて、そんな事言われても。



「総司こそ何してんのよ…まさか…のぞK「それ以上失礼な事言うと襲いますよ♪」




ひぃーーーー!!!



何か無意識に変な汗いっぱい出たよ!!??



「音がしたんで」


それで、と総司は淡く笑みながら縁側に腰を降ろした。


「ごめん、起こしちゃったかな」


「いえ…ちょうど起きていたので」


「眠れないの?」

「月が明る過ぎるんですよ」

「…あたしも」

「眠れないんですか?」

「うん」



笑っちゃうよね。


天下の新撰組の副長助勤ともあろう者が、他人に左右されるなんて。


「ねぇ、総司」

「はい?何ですか??」

「あたし、怒ってんのよねぇ」

「は?」

「何怪我してんのよ」




「……………は?」




「どうして、他人なんてかばうの」

「…ちょっと、待っててくださいね」

「は?」


まだ話し中なんだけど…。

総司は立ちあがって縁側を曲がって消えた。


何なんだ…。



「美味しいですね〜」

隣で呑気な声を出すのは一番隊隊長である沖田総司。

あたしは横目でチラリと総司を見た。

しばらく消えて、戻ってきたと思ったら団子持ってた。

いつもの笑顔に、手にはお団子。

「あれ?、食べないんですか?」

貰っちゃいますよォ〜?と総司はにっこりと笑む。

それをじとーっと座った目で見るあたし。

明らかに温度差の違う二人。


「…、まだ怒ってるんですか?」


はぁ、と溜め息を付いて総司は団子を皿の上に置く。




「当ッッッッたり前でしょ!バカ総司!!」




あたしは声を低くして怒鳴る。



それでも総司は、困ったような笑みを浮かべるだけ。

「…甘い物食べれば治ると思ったんですけど…困りましたねぇ」

「…フザけないで」

「本気ですよ」

「どうして、あたしなんかかばったの」


今度は声を随分落として訊ねる。


総司の白い肌は月明かりで更に白い。


肩口から、恐らく胸の辺りへ巻かれた包帯。


何よ…あたしより痛々しいじゃない。


「何でそんな事したの…」


声が震える。


歯を食いしばって絶えるけど、それでも涙が出そうだった。



「どうしてって…そんなの決まってるじゃないですか」



何言ってるんです、と然も当然のように総司が言ってのける。



「決まってない!そういうの止めて!」

「何でです!私の勝手じゃないですか!!」

「でもッ…」

そうよね、総司の勝手。

なんて自分勝手に割りきれるほど、あたしは図太くないわ。


「あの男と、何があったんです」


あたしの抗議の声を遮って、総司は真剣な眼差しであたしを見た。


何って、それは。


「私には言えない事なんですか?」


違う。


違うの、総司。


「誰にでも事情はあります、触れられたく無い事も、あるでしょう。ですが、


分かってる、総司には、迷惑をかけた。


「私はを放っておくことなんて出来ません。力になりたいし、守りたいのです」


どうして。


みんなそんな事を言うの。


「私は頑固ですよ?が教えてくれるまで…」


「あいつは、敵なの」

?」

「あいつは、あたしの敵なの…」

「何が、あったんですか?」

「1年前、一個の隊が壊滅した事があったでしょ」

「えぇ、ありましたね」

「その犯人が、あいつ」

「えぇ!!??」

「あたしの、義理兄で親でもあった、けど、今はあたしの敵に回った人」

あたしの視界に総司は入っていなかった。




「…あいつはあたしの総てを壊すつもりだ」



怖いのよ、だから。


人の命って儚いから。


たぶん、あたしの命よりここの人達は綺麗で儚いから。


守り切れる、自信が無いの。


は、そんなに私の事が、新撰組のみんなの事が、信じられませんか?」


あたしは弾かれたように顔を上げる。


「そう簡単に、壊されたりしませんから。しぶといですよ〜、私は特に」


そう笑んでみせてくれる。


が独りで抱え込む事無いんですよ。ここに居る全ての人がの味方なんですから…


 ちょっとぐらい頼ったって、誰も文句言いません」


むしろ跳び回って喜ぶんじゃないですか?


にっこりと笑って、総司は優しく言いかける。


気付いたら、泣いてた。



「そんな、事、言わないで…」



強くありたいと、何度も願った。


何度も、何度も、何度も。


そのたびに、自分の弱さに涙が出る。





嗚咽を隠すため小さく震える肩を優しく抱かれる。


そのまま、体を引き寄せられる。


「そ、うじ…?」


「黙って」


「濡れるよ」

「何ですか、濡れるくらい」

「…」


濡れてる髪を撫でられる。


…。




…強さって何ですか?


あたしがこの何年間求めていたモノは、強さだったんですか?



温かい手。


この手を護る為に、あたしは強くなる。








―次→乞うご期待!!……←初―

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はい、意味不明ですいません↓。

路線変更にて、ちょっと微調整気味。

最近寒いですねぇ。

風邪には気をつけてくださいね!














第二章へ入る前に…。これから上げていきます。少々御待ちを↓。


花 (沖田総司) ■強 (永倉新八) ■道 (藤堂平助) ■志 (山崎烝) ■温 (原田佐之助) ■真 (土方歳三)